理事長就任にあたり、ご挨拶を申し上げます。
私と人文研との縁は長くはありますが、この度初めて直接関ることとなり、就任式を行うにあたり、当研究所の長年の業績が皆様から認められていることを実感しています。同時に責任の重大さに身を引き締めつつ、新体制においても、変わらぬ発展を誓う所存です。
活動の要のひとつは、日本移民研究はじめ、多文化社会ブラジルにおける日系社会および日系人の実態やその役割等の調査・分析に関する図書や文献などを維持、充実させること、そしてそれらをより多くの研究者や学生のみなさんに活用してもらうことです。
当研究所は非営利の民間組織であるため、在サンパウロ日本国総領事館、国際協力機構(JICA)、国際交流基金、宮坂國人財団、山本勝三財団、ブラジル日本文化福祉協会、在ブラジル日本移民史料館などの公的・私的機関からの支援、そして会員や民間企業、他個人の方々からの支援をいただくことで活動が維持されています。この場を借りて感謝申し上げます。
当研究所と深く関りを持ったブラジルの日本移民研究者は数多く、アンドウゼンパチ、山本喜誉司、半田知雄、斉藤広志、前山隆、鈴木悌一、田尻哲也、ジョゼ・ヤマシロ、脇坂勝則、宮尾進、アントニオ・ノジリ、大浦文雄、森幸一などの名を挙げることができます。アンドウゼンパチについては、古杉副理事がその評伝を執筆し、人文研より刊行しています。私の前任であった故本山省三先生とモラレス松原礼子先生に感謝の意を表します。
人文研が所蔵する移民に関する史資料は多岐にわたりますが、『Uma Epopeia Moderna - 80 Anos da Imigração Japonesa no Brasil(ブラジル日本移民80年史)』や、この分野ではバイブルとも呼べる半田知雄著『移民の生活の歴史』は、ポルトガル語に訳されており、多くの蔵書の中でも傑出した作品であることは間違いありません。ブラジルにおける日本人の存在を研究する者にとって、必読の書といえるでしょう。
これら資料を研究のベースとする国内外の研究者の受け入れや、修士・博士課程の大学院生への支援も奨学制度として継続して行っています。
移民研究に貢献するという視点から、日本語史資料のポルトガル語への翻訳、それら資料データベースへのアクセス簡易化といった事業を本格的に進めていくことが今後の課題と考えています。また、視野を広げて研究者の方々と議論をし、時代に沿った日系社会観を確立していく必要性も感じています。
人文研にも新しい時代が来ていると信じています。新理事会、新監事会、新諮問委員会のメンバーを代表し、今後とも人文科学研究所をご支援くださいますよう、改めて皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。
2023年10月4日