人文研は現在、男所帯。女性の出入りもあまりない。だから外見はあまり気にかけていない。むさくるしい空間だ。シロアリやシミに侵されてもおかしくない状態だった。
目についていたのは、ソファーとカーテン。長年使い古されて、かなりほころんでいた。「あまり汚いので、ソファーに座りたくない」という人も。
研究団体として資料・文献を活用してもらうのだから、来訪者がちょくちょくあるわけ。ある意味、サービス業になる。貧乏なのは恥ずかしくないけれど、来客を応対するという意味ではみっともないかもしれない。
相手に不快感を与えないよう3月にカーテンの取り替え、ソファーのシーツを修理することになった。カーテンは元職員の女性に頼んで購入してきてもらい、ソファーは業者に発注した。苦しい台所事情の中で、予算をつけた。
ソファーが1カ月経っても戻ってこないのが気がかりだが、所内のイメージが少しは変わるだろう。
移民関係の文献・資料が豊富さ。人文研のウリは間違いなく、所蔵図書にある。個人・団体からの寄贈を中心に、創立当初から収集してきたもので、ざっと3千冊。希少本も少なくない。1人でも多くの人の研究に役立てるのが、人文研の願望であり使命だ。
ただ移民関係の刊行物が主流を占めるのだから、一般の図書館が採用しているような分類方法ではうまくいかない。
そこで客員研究員として1年間籍を置いていた女性が数年前に、当研究所に協力。10進法に基づきながらも人文研独自の分類方法を編み出した。「移民・移民史」「農業・組合」「文芸・芸術・スポーツ」といった具合に並んでいる。
だが整理整頓が行き届いているかといえば、恥ずかしながら疑問符をつけざるをえない。販売用の刊行書も無造作に積んであるだけだった。「ここの本棚はめちゃくちゃですねえ」と、苦情も受けた。
3月のある火曜日、1日かけて、皆で整理をすることになった。在庫の有無が一目で分かる場所に、販売用の刊行書を移したうえ、空いたスペースに閲覧用図書の一部を並べた。過去の調査カードなど、不必要な文書類も処分した。
もっとも素人判断で書籍を移動させただけのには変わりがない。本格的な整理、分類はJICA日系社会青年ボランティアが7月に着任してからになるだろう。
窮屈だった棚が少しは落ち着いたのではないか。そう一息ついて、席について思った。「あれ、いけない。最も荒れていたのは、自分の机だったかも」。(おわり、己)