黒い肌の女たち(3)
segunda-feira, 14 de janeiro de 2008

アクアルツネ
 元はコンゴの王様の娘で、父親は一万の兵卒を率いる軍団長。部族間の戦争で捕虜となり、レシーフェに連れてこられ、子どもを産む機械として買われました。家畜には「種付け用」というのがあるのですが、ドレイにもそんな役目を負った人たちがいました。強壮な身体をもつ男性が選ばれるわけですが、同時に「産む機械」として買われた女性たちもいたのです。いい役目だと羨望する輩がいることも否定しませんが、人生もとっくに折り返し点を過ぎた今では、「辛い役目」だと私は同情してしまいます。

 アクルツネも繁殖用の袋として買われてきました。身重で、ペルナンブコに売り飛ばされるのですが、そこで、奴隷解放を目指す運動を耳にします。当時、ずいぶん、セニョールたちから逃れて森に逃げ込むドレイがいて、そのうちのコムミュニテイー(キロンボという)の一つが有名なパルマレスです。アクルツネが住んでいたところからパルマレスはそれほど遠くありませんでした。そこでは何百人ものドレイが自由に生きているという噂を聞いたアクルツネは逃走します。

 1660 年ごろはブラジル全体の人口が19万前後、首都サルバドールが約3万、対してパルマレスは2万弱だったといわれますから、その規模と意気軒昂さはおして知るべし。経済のベースは狩りと魚とり。これに農業。ここではトウモロコシ、サトウキビ、インゲン、バナナなどが栽培されていました。また、特記されるのは、鍛冶場が設けられ農具や武器が作られていたことです。さらに、アフリカの伝統を守って儀式や祭儀が行われていました。

 親がコンゴの王様だったアクルツネは部族の伝統、習慣も熟知しており、すぐ部落の一つを預けられます。というのは複数のキロンボが周囲にあって、それを統率するかたちでパルマレス共和国が形成されていたからです。

 口承によると、リーダーのガンガ・ズンバはアクルツネ系の人間で、その娘の一人がズンビを産み落としたといわれています。後継者のズンビはパルマレス王国の王様、ドレイ解放の推進者となりました。

 おもしろい話が見つかりました。前にも述べたように当時のブラジル社会は一夫多妻。しかし、一般キロンボ住民は一妻多夫だったというのです。近隣のサトウキビ園を襲って女ドレイを奪取することもやっていましたが、逃亡してくるドレイは絶対数男が多かったからで、一種の必要悪。当事者は『悪』だとも思っていなかったでしょう。王国の維持こそが第一義ですからね。

 この王国崩壊のハナシはブラジルの歴史中もっとも悲惨なものだといわれています。共和国の成長に脅威を感じた植民地政府は、討伐隊を組織し、根強く長期間にわたって派遣します。その数30回。1677年に老いたアクアルツネは植民者たちが放った火に囲まれて死亡。しかし、パルマレス王国は1695年まで持ちこたえますが、とうとうズンビも逮捕、処刑されます。レシーフェのカルモ教会の前で晒し首になりました。

 1985 年になってパルマレス共同体は国定史跡に指定されました。これは軍政から民政に移行したことが大きく影響しているようです。また、95年になされた爆弾声明。パルマレスに関する研究論文をいくつも書いているルイス・モッチという人類学者が「ズンビはホモであった」と発表したのです。サルバドールの黒人団体が猛烈に反発、ハチの巣をつついたような騒ぎとなりましたが、どんな結末になるのでしょうか。

 実は「黒人意識向上の日」として祝日に指定されている11月20日は、ズンビの死去した日なのです。2004年から祭日として制定されています。ブラジル全国の黒人は1250万で、アフリカやアンゴラに匹敵する人口だそうです。黒人の人口比は49・4%で半数にのぼり、黒人の大学生比も、2015年には人口比と同じになるだろうと推定されています。増加の理由として、国立大学の定員割り当て制度や奨学金制度が充実したことがあげられています。

 植民地時代のほとんどが文盲だったころをふり返ればまさに昔日の感。そういえば、この文盲という言葉ももう使っちゃいけないんですね。「非識字者」、「非識字率」という世の中になりました。その識字率の問題。ちょっと古いんですが手元にある2000 年の「アルマナケ」によると、まるっきり読み書きできない人口が30.5%、何とか書けるが書いてあることを理解できない者が47.8%。読解力に関しては、最近さらに低下していると聞きます。もっともこの読解力の低下に関しては識字率100%に近い日本でも最近、顕著らしいのですが。

写真(上):男女のドレイ
  (下):ズンビ

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サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros