先月29日、文協1階会議室において、ブラジル日本移民史料館運営委員長、栗原猛氏による「移民史料館の現状とその将来」というテーマのもと、第9回研究例会が開催されました。
お話の初めに栗原氏は、これから話すことが運営委員会全体の意見ではなく、あくまでも個人的なものであると前置きした上で、史料館の現状を話し始められました。
移民史料館には約9万7千点の所蔵品があり、現在、そのデジタルアーカイブの構築作業が進行中であるとのことです。そして、問題点に話を移され、五つの点を挙げられました。
一つ目は、収支のアンバランス。毎年、4-5万レアイスほどの赤字経営が続いており、文協の三大お荷物の一つと呼ばれていること。二つ目は、学芸員の不在。文協の傘下にあり、給料体系について協会の規約として、学芸員に見合った給料を支払うことが、不可能であること。また、史料館が所蔵する日本語の史料を理解できる人材を確保することの難しさもあります。三つ目は、収蔵施設の手狭。温度、湿度管理を必要とする多々の物品をそれにふさわしい仕方で保存するための施設が不足しており、間に合わせの状態での運営となってしまっている現状。また、史料館が所在する文協ビルの老朽化が進み、白蟻駆除の専門家の意見では、あと十年もたないのではないか、というのが四番目の点。そして、最後の点として、また、ある面最も根本的な問題として、文協の傘下から抜け出せずにいるという点が強調されました。栗原氏は運営委員長を引き受けるに当たり、史料館の法人化ということを条件にされたそうで、当初はそのための準備が始められたものの、その後、文協の運営体制が交替したことにより、現在この動きが後退してしまったと説明されました。
そして、今後への展望として、まず、史料館の学芸員不在を補うために内外の研究機関との連携が掲げられました。その筆頭として挙げられたのは、史料館事務所すぐ隣に位置する、当サンパウロ人文科学研究所であり、USPの日本文化研究所を含めた統合を目指すことにより、ブラジルにおける日本移民、ならびに日系社会研究の知識集約を行うという考えです。日本の大学などとの連携ももちろん視野にあり、実際に早稲田大学の移民・エスニック文化研究所との提携により、さまざまな事業が行われていることも紹介されました。そして、先に挙げられた様々な問題を抱えた現状を打破するために、やはり、史料館の財団法人化が有効な策であるという点が、再度強調されました。もちろん、それが最終的な目的ではないと、栗原氏は説明し、過去から受け継いだ遺産を未来に繋いで行くために必要な変化を遂げていかねばならない、との言葉をもってこの話の幕が閉じられました。