2013年度通常総会のご報告
quinta-feira, 11 de abril de 2013

2013年度通常総会が3月28日、当研究所にて開催されました。総会の席上、2012年度事業報告および2013年度事業計画案が発表されましたので、ここでご紹介いたします。

2012年度事業報告書

1. 組織変革への試み
 研究所として会のあり方を考えるため、2011年度には3回シリーズのシンポジウムが開催された。今年度、理事会が新しくなったことに伴い、まず顧問である宮尾進氏との懇談会が6月14日に開かれた。これは、宮尾氏より今まで人文研が歩んできた道についての知識を深め、今後への発展について考察するための材料にしようという目的で行われたものである。この会議には10名の参加があった。
 その後、外部の識者たちを集め、組織上の変更や研究活動に関する指針について論議するため、10月8日に別の会議が開かれた。この会議には14名ほどが出席し、研究テーマの拡大や経済的支援を得る方法などに関して意見がまとめられた。
 これらの会議を通し、経済的な支援を得やすくするためにOSCIP(民間公益団体)の認可を取得することや公的資金などからの援助を得られる研究プロジェクトの立案の必要性などが確認された。

2. 日本特別研究員の選任および日本支部の開設
 当研究所の活動は、現在主に日本からの研究者たちとの関係におけるものが多く、日本側における活動の発展や関係者たちとの連携強化を図る必要が感じられていた。そこで、日本特別研究員のポストを置くことが決められ、山本晃輔氏(大阪大学大学院)と名村優子氏(立教大学大学院)の二名が選任された。
 また日本に於いて、当研究所の活動に対して理解を示し、支援を行なうことを望む人々への窓口を設けることを目的とし、日本支部開設の準備が進められた。栗原理事を代表とし東京都に所在地を置き、銀行口座も開設された。
 6月30日から7月1日にかけ開催された日本移民学会においては、日本支部と協力者たちの手により「ブラジル日本移民・日系社会史年表(1996~2010年)」の販売が行われ、16冊(40.000円)の売上があり、日本における当研究所の存在を知らしめる機会ともなった。
 今後、会が日本において活動を展開していく上での拠点となることが期待される。

3. 若手研究者養成のための奨学制度の継続・実施
 今年度、4名の奨学生たちが当研究所指導教官の下、研究を行った。いずれの学生とも契約を完了し、2名は最終報告書をすでに提出した。論文集の刊行を年度内に行うことが出来なかったのは誠に遺憾であるが、早期にこれを実現すべく努力して行きたい。尚、年初にTerra & Saúde Centro de Pesquisa de Agricultura社(続木善夫氏代表)がこれまで行なって来た支援を終了し、その後、9月より山本勝造財団からの支援をいただくことになった。

4. 研究活動
 現在、当研究所内の研究者たち3名が執筆へ向けて作業を進めており、調査活動のために篤志家3名よりそれぞれにR$5.000,00の支援金が支給された。研究者ならびにそのテーマは以下のとおり。

  田中慎二:評伝「半田知雄」
  古杉征己:評伝「アンドウ・ゼンパチ」
  宮尾進:「ブラジル日系美術史」

 また、サンパウロ大学(USP)ヒラノ・セイジ教授(文学部社会学科)指導下にある二名の学生たちの研究活動を当研究所が受け入れ、宮坂国人財団よりR$15.000,00の寄付がなされた。この研究は2013年6月まで継続される予定である。

  グスタボ・タケシ・タニグチ、マテウス・ガット・デ・ジェズス:
  「『学生』:日本人移民による出版活動に見られるブラジル国民意識の形成(1935-1938)」(ポ語による研究)

5. 年表販売・文協古本市への参加 
 一昨年12月に刊行された「ブラジル日本移民・日系社会史年表(1996~2010年)」の販売をブラジル日本商工会議所の協力の下、日本からの進出企業および在伯日系企業向けに行った。これは1月17日、商工会議所の新年会の際に行われ、最終的に89セット(旧版との二冊組)および新版のみ五冊の売上、金額にしてR$9,100.00という結果であった。このために格別のご配慮を頂いた日系社会委員長天野一郎氏、副委員長石嶋勇氏を始め、協力いただいた関係者各位に改めて感謝申し上げたい。
 また、4月29日には文協主催の古本市に参加し、R$3,224.00の売上があった。

6. 企画・イベント
本年度開催された各種イベントは以下のとおり。

1. 研究例会 
 8月 「日系人定義の変容とnikkeiアイデンティティ」:小嶋茂氏
(JICA横浜職員)
 11月 「アマゾン奥地の日系人-おもにマウエスを事例に-」:丸山浩明氏
(立教大学文学部教授)

2. 勉強会
 1月 「水野龍の移民思想」:中村茂生
(早稲田大学移民・エスニック文化研究所客員研究員)
 2月 「ブラジルと日本の間を行き来する子供たちの教育問題」:山本晃輔
(阪大大学院生博士課程)
 5月 「日本語新聞―文化的アイデンティティ保存とブラジル文化への接近に果たした役割(ポ語)」:白丸ライス(奨学生)
 8月 「多文化混淆地域の食文化―接触領域における文化変容とエスニック関係」:安井大輔氏(京都大学大学院博士課程)
 10月 「地図から見る戦前のアリアンサ移住地」:名村優子氏
(立教大学大学院)
 11月 「邦字紙記者から見た帰伯した元デカセギ達の姿」:田中詩穂氏
(ニッケイ新聞記者)

7. 資・史料の分類・整理
 この分野の業務においては、今年度何件か大口の図書寄贈があり、今まで蔵書にない貴重な(主に文学関係の)出版物も含まれていた。それらの図書の整理、登録作業などが部分的になされ、かつ進行中である。
 主な寄贈図書
 • 西村財団(故西村俊治氏、ポンペイア専門学校所蔵資料)
 • 安良田済氏(自己所蔵資料)
 • 故清谷益次氏所蔵資料
 • 故小林成十氏所蔵資料

清谷顧問死去
 1986年より当研究所の理事また顧問としての任務を果たしてこられた清谷益次氏が6月15日に逝去された。


2013年度事業計画書

1. 小委員会の設置
 当研究所の今後の活動の方針となる考えをまとめることを目的に、外部の有識者を加えて小委員会を発足させる。これらの委員会の目的としては、
 ・ 当研究所の今後の事業にふさわしい新しいプロジェクトを立案すること、
 ・ 新しいプロジェクトを実施するための財源確保を容易にするため、OSCIPの資格取得を検討すること
などがある。

2. 若手研究者養成のための奨学生制度の継続
 昨年度末に選考された第3期奨学生に対する指導は本年2月より開始されている。これまで以上に意義のある研究がなされることを期待したい。なお、今期奨学生とそのテーマは以下の通り。

 プリシーラ・ミキ・サタケ(USP-LESTE)
  “Produção têxtil no Japão – Tradição e modernidade: O Kimono e a identidade japonesa”
  (「日本の繊維製品の変遷:キモノに見る日本のアイデンティティ」)

 ウィリアン・ヴィエイラ・アントニオ(PUC-CAMPINAS)
  “História japonesa séc. XIX – Os valores do ocidente no Bakumatsu”
  (「19世紀幕末に於ける西洋価値観の受容」)

3. 日本支部の活動
 日本における当研究所の支援システム構築を目的とし、昨年度より準備がなされてきた日本支部だが、今年度は支部の開設をメディアなどを通して公にし、実際に賛助会員を集める作業に取り掛かる。また、日本特別研究員たちや他の協力者と会合を持ち、どのような活動を発展させていくことができるか考慮していく。

4. 客員研究員・研究生の受入れ
 随時、外部よりの研究者を受入れ、研究活動の支援を行なっていく。現段階において、4月より紀葉子客員研究員(東洋大学教授)を1年間の予定にて受入れることになっている。

5. 出版事業
本年度、出版が計画されているものは次の通り。
 1) (昨年度)奨学生期末論文集
 2) 人文研叢書9号
  評伝「半田 知雄」    執筆者 田中 慎二

6. 美術品即売会
 会の運営費補填を目的とし、日系画家たちの協力を受け、今年度中に美術品(絵画その他)の即売会を開催する。

7. 所蔵音源デジタル化プロジェクト
 当研究所には1975年から1986年にかけて講演会や対談などを録音したカセットテープが約250本ほど所蔵されている。これらの音源資料は経年劣化の影響もあり、死蔵化される可能性が日々強まっている。そこで、デジタル化することによりこれらの貴重な資料を再利用できるよう、今年度中にこのプロジェクトを実施することにする。

8. 蔵書デジタル化プロジェクト
 人文研は、約3000冊に上る移民に関連した図書を所有しているが、この中には非常に貴重な資料も数少なく含まれている。これらの資料の保全やより有効な活用を考える上で、デジタル化は最もメリットの多い対処策であり、今年度中、どのような仕方でそれを実行に移すことができるか検討し、また企画を行う。

9. 資・史料収集と整理
 上記、第7項と8項とは、本来この項に記されるべきものであるが、規模の上から別項目にて特記する方がよいとの判断の上、そのような記述がなされた。その他、継続的に行われている資料整理に関し、非日本語図書の整理に本年度は力を入れ、また雑誌の分類整理にも着手するものとする。

10. 企画・イベント
 本年度も当所主催による下記の発表会を随時実施する。

 1) 研究例会
  研究者によるアカデミックな研究や調査の成果を一般に発表する趣旨による。
  本年第一回が4月2日に予定されている。(細川周平氏「ブラジル移民の文学史」)       
 2) 今昔物語
  従来あまり採りあげてこなかった分野における移民の営為を発掘して発表するもの。
  本年第一回が1月31日に開催された。(根川幸男氏「人間生活空間としての移民船」)

 3) 勉強会
  若手研究生の研究テーマを中心に非公開で討論を行う趣旨による。本年既に開かれたものは以下のとおり。
  第1回 古杉征己氏 「アンドウ・ゼンパチとマカコ事件」   1月15日
  第2回 舛方周一郎氏 「ブラジル地方選挙2012:サンパウロ市長選挙から、ブラジル政治のこれからを読む」   2月14日     
  第3回 丹羽義和氏 「ブラジル日本語教育の現状とその展望」 3月12日

11. 公式ウェブサイト
 本年度、新たに追加予定のコンテンツは以下のとおり。
  ・ 「ブラジルに於ける日系人口調査報告書 -1987・1988-」全体の公開
  ・ 蔵書検索システムの情報追加および拡張
  ・ 年表(1995年まで)検索システム

理事会 任期2年(12年4月より14年3月まで)
 顧問        脇坂勝則 宮尾進
 理事長       本山省三 
 副理事長     菊地保夫
 第一常任理事  大原 毅
 第二常任理事  細川多美子
 第一会計理事  古杉征己 
 第二会計理事  高山儀子
 理事(順不同)  栗原猛
 理事        押切フラヴィオ
 理事        松村照明
 理事        小林真登
 理事        天野一郎 (新)

 監査役 任期1年(13年4月より14年3月まで)
 (正)久保ルシオ 森脇礼之 丹羽義和
 (副)トッパン印刷 山本商会 フォノマギ 


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros