ENG2018レポート
小谷真千代(当研究所2017-18研究員)
quarta-feira, 22 de agosto de 2018

サンパウロ人文科学研究所研究員の小谷です。2018年7月1日から7日にかけて、パライバ州ジョアン・ペッソアで開催されたAssociação dos Geógrafos Brasileiros(以下AGB)の全国大会(Encontro Nacional de Geógrafos、以下ENG2018)に参加してきました。

パライバ連邦大学
AGBは1934年、大学の研究者らを中心にサンパウロで設立された学術団体です。2年に一度各州を移動しながら開かれる全国大会は、ブラジルの地理学最大のイベントとも言えるでしょう。約一週間、ブラジル全土から地理学者が集まり議論を重ねます。第19回にあたる今大会は、ジョアン・ペッソアのパライバ連邦大学で「21世紀のブラジル地理学を考え実践する:新たな世界地政学におけるスケール、社会空間的コンフリクト、構造危機」をテーマに開催されました。そのうち一般報告では、都市、農村、地理思想、自然環境、教育という5つの部会が設定され、さらにそれぞれ約20のセッションに分かれて報告が行われます。


一般発表の会場。「労働の不安定化」セッションは、3時間の間に4~5人が報告者になり、別の参加者らも自由に発言するというスタイルでした。
今回わたしが参加したのは「都市」部会の「労働世界の矛盾と不安定化」というセッションで、日系ブラジル人労働市場は日本-ブラジルというスケールの関係だけではなく、国家、都市など重層的なスケールで捉える必要があること、2008年のリーマン・ショック以降縮小すると考えられてきた労働市場が場所を変えてふたたび拡大しつつあることを報告しました。おもしろかったのは、わたしが配置されたのが移民を対象とした研究が集まるセッションではなく、カメロー(露天商)、フェイランチ(青空市場に出店する人びと)、カタドーレス(くず拾いで生計を立てる人びと)、工場労働者など、ブラジル各地の不安定な労働事情に関する報告が中心のセッションだったということです。移民という枠におさまらない意見交換は、非常に新鮮で刺激的でした。

セッションでは、参加者全員が新自由主義的な労働市場再編という問題意識を共有しつつ、ブラジルと日本では問題となる状況が違うという点が印象的でした。同じ労働の不安定化といっても、それは既存の制度・政治などそれぞれのコンテクストに埋め込まれており、非常に不均等な形で生じています。たとえば、労働の不安定化というと、日本においては派遣や請負など間接雇用の拡大が思い浮かべられますが、今回のセッションではインフォーマルな市場の拡大が主要なテーマだったと言えるでしょう。

参加者たちと。
ENG2018では、一般発表のほかにも、フィールドワークやラウンドテーブルなど多くのアクティビティが企画されていました。日本で参加した学会と比較して印象的だったのは、学会がどのように社会運動や政治と関わっていくかという問題意識が非常に強いこと、そして議論の場がより多くの人々に開かれているということです。大学生、大学院生、教員、ビルを占拠するひと、地理学を専門にする恋人に同伴してきたひと!多様な参加者たちが活発に意見を交わす会場は、どこも熱気に満ちていました。

ENG2018への参加は、わたし自身の研究の今後についてだけではなく、研究への姿勢、学会のあり方など、多くのことを考える機会になりました。残り3ヶ月と短い時間ではありますが、今回得られた刺激を血肉化し、言葉にしていきたいと思います。


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros