先住民の女たち(2)
segunda-feira, 14 de janeiro de 2008

(2)マダレナ・カラムル
 その後、ポルトガルから多数の植民者がブラジルにやってきましたが、そこにはマメルッコとよばれるインジオと白人の混血児たちが大勢いました。一般的にポルトガル人男性の理想は褐色の肌・黒い瞳のモーロ人女性なのですが、それをブラジルのインジオ混血女性に見出したのです。この女性たちはマメルッコ一世と呼ばれます。

 さらなる混血児(マメルッコ二世)があふれるように誕生しました。そんな魅惑的な娘の中にパラグアスとジオゴの娘もいました。というより、娘のマダレナは父親の地位からより優位な立場にいたと考えられます。

 一方、ブラジルは広大な土地をもち、慢性的な人口不足を抱えていましたから、時代は産めよ増やせよだったわけです。誕生した強靭で従順なマメルッコたちは、生粋の植民者よりも熱帯性気候にも適応しやすく、しかも純粋のインジオより白人文化に順応しやすい素地がありました。ポルトガル人たちにとっては結婚しやすいということになります。

 マダレナは母親がカトリックですから当然カトリックです。アフォンソ・ロドリゲスというポルトガル生まれの貴族と結婚(1534年)。この時代、野合が多くて正式な結婚というのはまだまだ珍しかったのですが(母親のパラグアスもフランス王立会いの下で結婚しています)、バイアのビトリア教会に記録が残る正式なものです。このアフォンソという青年貴族がマダレナを文字の世界に導きました。

 身内に学習させるというのは思う以上に大変で、現代でも、「車の運転習得は自動車学校で」といわれるくらい家族間、なかんずく夫婦間ではしてはいけないと言われます。まあ、車でなくても、日本語でも、家族間では先生と生徒はやらないほうがよろしい。実は私も娘に日本語を教えようとしたことがあったんですが、身内というので欲が出て、覚えてくれないと腹が立つものなんです。つい、「頭が悪いのね」などと怒鳴ってしまい、日本語なんて大嫌いとしっぺ返しを受け、元も子もなくなります。

 のちの、黒人は人間として扱われなかった奴隷時代でさえ、当主である植民者には読み書きができないものが多数。反対に黒人に読み書きができた者がいたという記録がありますが、そんな時代に先駆けてアフォンソは数少ない識字者だったことになります。

 さらに女が本を読むことが罪悪だった時代、あえて自分の妻に読み書きを教えたアフォンソという人の見識。偉いなあと感心しながら、両親のジオゴもパラグアスも柔軟に環境に対処できる人たちだったことに気がつきました。だから、マダレナだって頭脳明晰だったはず。まあ、当然といえば当然ですが。

 まさに「女は産む機械である」が常識だったこの時代に、マダレナがものにできた識字の世界。果たした役割の大きさにため息が出ます。サルバドールの司祭に当てたマダレナの手書きの書簡(1561年)が残っています。

「親から隔離され、神も知らず、我々の言葉も解せず、やせて骸骨のようになりながら奴隷小屋に軟禁されている子らが、虐待から救われますように」と嘆き、働く力もないかわいそうな子らのために金貨30枚を寄付しています。

 昨日まで、純朴な人々のふるさとであったバイアが、奴隷商人に牛耳られる守銭奴の町になったことを嘆き、「舟が着くたびに浜に吐き出され、競売に付され、売られてゆく愚直な黒人たち・・・もっと、ほかに人間的な道があったかもしれないのに・・・」

 裕福な家庭に育った人間の鷹揚さ。大変、心優しい、ヒューマンな手紙です。しかも格調高いポルトガル語。

 神様は平等でないなあと思いながら、パラグアスを祖に抱くこの人たちは、結局、選ばれた者なのではないかという気がしました。時代がこのような人たちを求めたのです。インジオでありながら白人青年と結婚し、最初の混血ブラジル人を産み、カトリックに帰依し、教会で正式に結婚し、しかも娘は識字女性第一号。

 ブラジルは国家としてここから第一歩を踏み出さなければならなかった。そのために選ばれた人たち、なのではないでしょうか。

 これはルゾ=ブラジルにおける女性の役割をさがす歴史家たちにとっては、垂涎の資料。「袋」として文化的なものから遠ざけられていたこの時代の女性としてはまさに「異色の存在」です。(つづく)


 写真:チビリッサと孫

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サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros