細川周平教授 講演 開催報告
quarta-feira, 27 de agosto de 2008

8月21日(木)午後6時半より、国際日本文化研究センター細川周平教授による講演『遠くにありてつくるもの』(サンパウロ日本文化福祉協会1階)が行われました。



細川氏は、本年7月に刊行された著書『遠くにありてつくるもの:日系ブラジル人の思い・ことば・芸能』(みすず書房)の内容を紹介しながら、「郷愁」というテーマについて解説。郷愁という思いが、社会科学者によって単に「後ろ向きな感情」と捉えられやすいことを指摘しながら、この著書ではブラジル日系移民の郷愁の念について「涙、情けということを学問に持ち込」むことを試みながら徹して論じたと述べました。そこで、細川氏は、著書で取りあげた戦前・戦後の短歌、俳句、川柳の一句一句を紹介しながら、移民の郷愁に結びついていた「懐郷」、「未決断」、「自嘲」、「未練」、「愚癡」、「後悔」、「あきらめ」などの心理を論じました。最後に、「永住と決めて静かな夜の膳」という1950年代の一句を引用しながら、「様々な感情の噴出を越えて、ある静かな境地に達している」と述べ、講演を終えました。



一時間の講演のあと、参加者から活発な質疑応答が行われました。そこでは、「現在の表現活動は『郷愁』ということをもはやテーマにしていない。日系コロニアの人間一般が『郷愁』を抱いていると日本の読者が感じるのではないかと危惧する」という意見がなされた一方、「郷愁についてここまでしつこく書いたものはない、と自負されているが、その点については成功している。これはコロニアの内部にいて作品を書いている人間としては思いつかない点で、(細川氏が)外部の人間としてアプローチしたからこそ書けたことだ」という評価の声も上げられました。



幅広い年齢層から30人ほどの参加者があり、大変に充実した会合となりました。


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros