文書整理の流れと人文研の個人資料について
清水邦俊(日系社会シニア海外協力隊)
quarta-feira, 28 de agosto de 2019

1. はじめに

2018年7月にJICA日系社会シニア海外協力隊として、サンパウロ人文科学研究所(以下、人文研とする)に学芸員として派遣されてから1年が経過しました。学芸員といっても文書整理を行うアーキビストです。そこでアーキビストの仕事の内容を紹介します。

昨年の着任の挨拶のなかで、資料を歴史資料にすることが、アーカイブズという言葉の意味の一つであると書きました。歴史資料になるまでの具体的な作業は、主に①調査②選別・受け入れ③整理④各種目録の作成⑤公開⑥閲覧⑦保存・修復⑧配架の8つの工程があります。これらを飛ばさずに順番に行う必要があります。今回はこのうち③整理について取り上げます。

2. 4つの原則と概要目録・細目録

最初に、整理を行う上でICA(International Council on Archives:国際公文書館会議)が定めた4つの原則を紹介します。それらは、出所原則、原秩序尊重の原則、原形保存の原則、記録の原則です。

出所原則は、文書が発生した母体(組織)ごとに、ひとまとまりの文書群として整理しなければならなく、他の出所母体の文書を混ぜてはいけないということです。出所とは、本来の業務遂行の過程で記録を作成・蓄積し、保管・使用してきた組織や個人のことを言います。簡単に言うと、A団体とB団体それぞれで作成した文書を、混ぜてはいけないということです。

原秩序尊重の原則は、発生母体において、とられていた文書の配列方式(重なり・まとまり・ファイリング等)は、文書群の体系的な構造を解明する手がかりになるので、これをむやみに変更してはいけないということです。例えば、私たちは書類を整理する時、関連する書類をクリアファイルに挟んだり、ファイルに綴じたりします。書類に全く異なったタイトルが付いていても、関連する文書全体を見ることによって、どのような活動の基に文書が作成されたのかを知る手がかりになることが多いからです。

原形保存の原則は、文書の折り方や綴じ方、包み方等、物理的な原形をむやみに変更してはならない、特に整理する過程で、文書に新しい折り目や綴じ穴等をつけてはいけないということです。同時に付箋やセロテープ、シール類の貼付、押印(蔵書印や所有者の印)、書き込み等、文書自体に手を加えることをしてはいけないということです。要するに、そのままの状態で保存するということです。

記録の原則は、文書群の現状に変更を加える場合は、写真やメモ等で記録に残すということです。例えばファイル等で一括してある文書を、ファイルから外す場合は、記録をとらなければなりません。

以上の原則を踏まえて整理に取り掛かります。一口に整理と言っても2つの作業を行います。それらは物理的整理と情報的整理です。物理的整理とは、文書からクリップ等の金属製留め具を外したり、クリーニングしたり、封筒等に入れる等、文書そのものに対する整理のことをいいます。一方、情報的整理は、文書の記載内容やまとまり・ファイルごとの概要目録と、文書一点ごとの細目録を作成することです。概要目録とは、ファイルやまとまりごとに、いつ頃、どのような活動によって文書が作成されたのかを把握し、細目録は文書1点ごとにどのような内容が書かれているのか、いつ作成されたのか、誰から誰宛か等を、それぞれデータ化します。

3. 人文研の個人文書の整理

私が現在進めている人文研の個人資料の整理は、上記の4つの原則を遵守しながら、情報的整理のうち概要目録を作成する作業を行っています。概要目録の項目は、出所名・箱番号、一括表題・年代幅・形状・概数です。一括表題とあるように、主にファイルやまとまりを表した目録です。箱に番号を付し、箱ごとで項目に記述しています。概要目録は、何かの関係資料を検索する場合や、通覧して文書群の全体像を把握することには有効です。

その反面、短所は資料名で検索するには適していません。文書によっては、単独で、資料名で採録している場合もありますが、多くの場合ファイル単位やまとまりごとに採録しているため、具体的な文書名での検索はヒットしないことが多いです。この問題を解決するためには、次の段階である細目録を作成することです。概要目録・細目録を作成し、文書をマクロとミクロの視点の両方から、検索を可能にすることが望ましいと言えます。

また、概要目録の作成終了後に、個人資料ごとに資料ガイドを作成する所存です。資料ガイドとは、文書の年代幅、個人の簡単な履歴、活動内容と関係する文書、文書の伝来事情、概数等を文語体で記述したものです。このうち、活動内容や文書の伝来事情は、アーキビストが整理の過程で収集する情報のため、利用者はなかなか知りえない情報と言えるでしょう。したがって、利用者が資料ガイドを事前に読むことによって、一個人資料にどのような文書があるのか大まかなことを把握できます。その上で概要目録を利用することで、より深く文書群を理解することができると思います。

4. 終わりに

今回紹介した③整理で重要なことは、文書に記載されていない隠れた情報を失わないことです。文書に記載されていない情報とは、文書同士の関係性をいいます。ファイルにタイトルが付いておらず一見関係性が不明な場合も、ファイルされている文書全体を通して見ることで、どのような活動の基で作成されたか判明する場合が多々あります。1点の文書だけを見てもわからなかったことが、全体を通して見るとわかるということです。したがって、整理では、ファイルごとのまとまりや、文書の重なりを崩さないことが重要になってきます。私の今次作業では、時間的制約の関係から、細目録を作成するまでには至りません。細目録が完成するまで、この状態を崩さずに引き継ぎたいものです。

このように、文書に記述されていない隠れた情報を丹念に集めていくことが、やがて文書を公開した時、利用者に様々な情報を提供できるわけです。              


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros