ブラジル文化と経済の(歴史的な)関係について(3)
辻 哲三(人文研 監査役)
segunda-feira, 23 de maio de 2011

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混乱社会

さて、そのように世界にもまれな素晴らしい民族文化を持つブラジルではあるが、先ほど挙げたように、真の革命を経なかったためにイベリア半島の中世文化や植民地文化が温存されてしまった。特に特権階級に対する数々の恩典と法を超えた行動を容認する文化である。「汚職はブラジルの文化である」と公言する大統領、「取るけれども、それ以上に仕事をするのが私」と公言する元知事等がそれらを物語っている。

ブラジルの歴史と民族構成から見て社会秩序の混乱は避けられなかった。何しろ石器時代に生きるインディオを取り込んでしまったのだから法律や秩序が守られるわけが無いのである。文化格差が大き過ぎたのだ。それと歪んだ植民地文化が重なり合い、道徳の欠如、自治組織の未熟、あらゆる分野に付きまとう格差、特権階級、司法の不在、貧困、無知、暴力犯罪、汚職、麻薬、密輸、官僚主義、利己主義、等々の矛盾と混乱を内蔵する国家となった。国民が植民地時代以来、政府を信用しないのもそのような流れの中にある。その混乱を収める一つの方法として弁護士が約60万人存在する。(日本は2010年でやっと3万人に達した) 徒方も無い無駄な労力、時間と資金が費やされているのが現状である。

さて、ブラジル人は、このような社会を称してバグンサ・オルガニザーダと言う。さしずめ、「混乱の中に秩序が存在する」国というのだ。私は、なかなかブラジル的で面白い表現だと関心する。この意味が理解できたら一人前のブラジル人になれるのではなかろうか。皆さん、お気づきになられたであろうか。この矛盾と混乱が回り回っていわゆるブラジル・コストを生み出しているのである。

いや、それだけではない、それゆえにブラジルで企業経営を行うということは日本人には予期せぬ様々な困難が付きまとうということだ。日本の常識が通用しない文化が異文化というものである。日本的な管理社会、安定した社会ではない。激しい言葉でいうならば活火山のような経済である。日本人は地震や火山爆発に毎日脅えている。そのために心の準備に怠りはない。ブラジルの経営者も経済爆発には心の準備に怠りはない日々を送っていることを忘れてはならない。

文化的な物事には何事も原因と結果がある。一般に情報として流れる新聞やTV、雑誌の情報は物事の結果が発表されるのであって、原因と経過の解説がないので実情が分からない。企業としては原因が分からなければ対策の処方もないのである。これは何もブラジルだけの話ではないが。一般的に派遣社員の方々はその国の文化を知る方法として体験による文化吸収が多いが、これでは問題解決にはならないし、ブラジル文化のほんの一部しか理解出来ないのである。多くの経営者は政治、経済、金融、マーケットの指数には興味を示すが、その国の文化指数に興味を示す経営者は少ないようだ。ブラジルの場合は好調な経済指数とは裏腹に、その混乱ぶりが理解できるであろう。経営者は片寄った情報を元に判断するのではなく、文化も交えた総合国力を評価してブラジルの将来を語るべきであろう。

しかし、残念ながら多国籍企業であれ、国内企業であれ企業の目的は「利益」にあり、株主の評価も短期「利益」を追求する傾向が強く、ブラジルがどのような「歪み」を抱えて発展しようが直接的には関係がなく、利益を上げれば良いという考え方ではブラジルの長期計画は不測の事態に巻き込まれる恐れがある。

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サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros