異端審問の女たち(4)
segunda-feira, 14 de janeiro de 2008

(4)フェリッパ・デ・ソウザ
 先のレズビアンのリストの筆頭に名前が挙げられている女性です。ポルトガルでは左官屋の女房。未亡人となりパン屋の女房としてサルバドールで暮らしていましたが、本人も縫い物などをして生活を支えていました。この35歳のお針子も読み書きができたのです。ふつう勉学のチャンスがあるのは中産階級以上の女性。フェリッパは特別向学心が強かったのでしょうか。

 「情を交し、肉体的な悦びを感じた」パートーナー6名の女性の名前が明かされ、審議は膨大、サルバドールの町は上へ下への大騒ぎになりました。

 どうやって6人もの女性を陥落したのかなあと不思議でしたが、「めまいがしたといって目星をつけたパートナーに介抱してもらいながら寝室に誘導」と証言されています。

 ふーんと感嘆しながらリストを眺めていると、レズ行為を36年間もつづけている女性も3名いることがわかりました。いずれも仕立て屋の亭主もち。10歳前後の少女期から結婚後もずっと継続していたことになります。昔は幼児期の教育が性嗜好を決定するとかいわれたようですが、最近の精神医学はこれを多方面から解明しています。

 フェリッパに話を戻しましょう。審議中にポルトガルにいたとき修道院で、すでに同性愛の罪科を受けていたという事実が浮上。これが決定的な要因となって有罪となります。

 白い罪人服を着せられ、裸足、手には蝋燭。サルバドールの町を引き回されてから、公衆の前で執行人が罪状をよみあげて鞭打ちの刑。一週間、水とパンだけで処刑台の上でさらし者。さらに罰金992レイス。その後にバイアから放逐され、消息不明になっています。

 このフェリッパさん。21世紀になってから、忽然とよみがえります。

 International Gay and Lesbian Human Right Commissionという国際同性愛人権協会がありますが、ここから毎年与えられる「フェリッパ・デ・ソウザ賞」というのがあります。これは同性愛の人権擁護のために尽くした団体や個人に与えられる功労賞なのですが、この賞にフェリッパの名が冠されています。大多数のブラジル人にとっては未知の女性ですが、ゲイ週間になると突然各種のサイトに登場。最近は知名度が高くなりました。

 でも、なぜ、なぜ、が頭をもたげるのですが、もともと密室内で行われる性行為。言い逃れができたはずですが、フェリッパはすべての罪状を昂然と認めました。その潔さ、果敢さを称えられているというのです。サルバドールから追放され行方不明となったフェリッパに対するオメナージュでもあるわけです。

10 年前からパウリスタ大通りで例年のように行われるゲイパレード。今年は240万人参加したといわれています。ホテル業界やレストランなどにも波及効果があって、年々派手に、豪華になっています。社会全体が同性愛を容認する風潮です。これをみたら、フェリッパはもちろんパウラなど当時裁かれた女性たちはどう思うかなあ、と私も隔世の感を強くしています。

 まだあります。2000 年、ローマ法王はバチカンで行った大聖年のミサで、ユダヤ人迫害や宗教裁判など過去2000年にキリスト教会が犯した過ちを認め、神の許しを請う告白を行いました。異端に対する十字軍の残虐はつとに有名で犠牲者11万4千人。1790年にマドリッドで行われた異端審問では30万人が死刑になっています。遅きに失したという批判も聞かれましたが、私たちは現在ある開かれた社会に感謝しなければならないということになるでしょう。

参考文献
Mulheres do Brasil ─Jorge Zahar Editor
Biografia do Brasil ─ Beatriz Forbes
Compendio de Historia do Brasil ? Antonio Jose Borges Hermida
A coisa obscura: Mulher, sodomia e inquisicao no Brasil ? Ligia Bellini
Memorias para a Historia da Capitania de Sao Vicente ─ Frei Gaspar da Madre de Deus
Revista de Historia da Biblioteca Nacional ─ No.17 No.18
Almanaque 2001─ Abril
Almanaque 2005─ Abril
大邸宅と奴隷小屋 上下 ─ ジルベルト・フレイレ 鈴木茂 訳
ブラジル文学事典 ─ 田所清克・伊藤奈希砂
現代ブラジル事典 ─ ブラジル日本商工会議所
ポルトガル・ブラジル文化への誘い ─ 佐野泰彦
熱帯の多人種主義社会 ─ 岸和田仁
ブラジル社会の歴史物語 ─ 田尻鉄也
ブラジル学入門 ─ 中隅哲郎
ブラジル史 ─ アンドウゼンパチ
ブラジリアへの500年 ─ 古野菊生
風化する拓人の記録 ─ 松林昇治郎
ブラジル日本移民の草分け ─ 鈴木貞次郎

この連載についての問い合わせは、michiyonaka@yahoo.co.jpまで。


サンパウロ人文科学研究所 Centro de Estudos Nipo-Brasileiros